アイスクリーム事変

「いいですか、ちゃんと平等に分けてくださいよ、平等に」
「わーってる、わかってるって」

ちらりと横目で女を盗み見てやれば、本当にわかってるんでしょうね?と言いたげな妙の目がこちらをねめつけてきた。ハイハイわかってますって。と、銀時はうんざり顔で頷いてやる。
居間のテーブルの上には、コンビニから買ってきたばかりのダッツが一つ。

「それじゃ、分けるぞ」

銀時がダッツを手にとって、もう片方の手で握ったプラスチックのスプーンを掲げる。それに合わせて、ごくんと隣で唾を飲む気配。
少しでもこちらが変な動きを見せれば、即座に右手に握ったスプーンで銀時を刺しにかかろうという決意が横に座る妙からは窺えた。じとりと嫌な汗が銀時の背中に伝う(どうしてアイスひとつ食べるのにこんな怖い思いをしなくてはならんのか!)。

まっさらなバニラ色をしたダッツの白地の上から、スプーンで慎重に境界線を引く。
そこへ、今まで銀時の手元を黙って睨みつけていた妙が「あ、」と声を上げた。

「待ってください、銀さんの領土の方が大きい気がするんですけど」
「はあァ?オイちゃんと見ろよ、キッカリ平等だろーが」
「そうかしら」
「つーか領土って何。なんでダッツを領土呼ばわりしてんですかオネーサンは」
「あら、今の私にとってこれはただのダッツじゃないんです。領土なんです。大切な領土が均等に分配されないなんて死活問題です」

むっと唇の先を尖らせた妙が文句を言う。その目はひどく真剣で、それだけこの女のダッツに対する執着が強いことを改めて思い知らされる。

全ては10分ほど前のことだ。
コンビニでダッツを買おうとした妙だったが、レジを通した後でわずかな小銭しか持ち合わていなかったことに気づいた。
そこに、たまたまジャンプを買いに来た銀時が居合わせ、ちょっとした交渉(「お金貸してくださいな」「はい?」「金貸せって言ってんですよ、ちょっとでいいですから貸せよオラ」「いやでも俺ジャンプ買、」「貸せって言ってんだろ」「・・・・・・はい」)があり、今に至る。おかげでこっちはジャンプが買えなくなった。

(「半分金を出してやったんだから俺にも半ぶん寄越せ。」)

銀時のその一言で、買ったダッツは二人で半分こされることになった。
春日が差し込む居間で大人二人が仲良くアイスをつつきあう今の様子を客観的に想像してみる。ああ、なんとも間抜けな図だろうかと銀時は苦笑する。しかし、隣に座ってダッツを口に運ぶ女の顔があんまりにも幸福そうだったので。なんとなく文句を言うのは憚られてしまって、大人しく黙って自分もダッツを食べている。


それぞれのスプーンで交互に食べていって、やがて最後の一口という頃。
不意に、銀時の腕は横から鷲掴みにされて動けなくなった。横を見ると、笑顔の妙がキリキリと銀時の腕を締め付けている。

「・・・・・・ええと、なにか?」
「まァ、銀さんたら、コンビニでアイスを買ったときのこと忘れたんですか」
「コンビニ?」
「私が払ったのが143円。銀さんが払ったのは不足分の120円、・・・ですよね?」

だからなんだと銀時が怪訝に思っていると、妙の微笑みが不敵なものへと変化した。

「ええ、だから、最後の一口を食べる権利は私にあるでしょう?」

ね、と同意を求められた。当然でしょうと言わんばかりに、妙がにっこり微笑む。
いやいやいや・・・と銀時は首を横に振った。たしかに、払った金額はあちらが二十円多いけれども。

「さあ、最後の一口を譲りなさいな」
「やだね!ここまで交互に食べてきたじゃねェか。次は俺の番だろ、不正な領土の横領なんて銀さんは認めねーよ」
「不正じゃないでしょう。私は正論を述べてるだけです」
「これのどこが正論んんん!?」

何言ってんのコイツと盛大な溜息をついた、その時だ。実力行使しかないわね。ボソッと不穏な台詞を妙が呟いたかと思えば、妙の細腕が着物の袖から伸びた。
残された糖分を守るべく、最後の一口分のダッツが乗ったスプーンを遠ざけようと銀時は試みた。だが妙の方が一足早い。不意打ち気味に着流しの袖を強く横に引っ張られ、よろめいた銀時はそのまま後ろへばったーん!と倒れてしまった。
「ちょ・・・っ!」銀時の眼前には、天井を背にした妙。押し倒されるような形にギョッとする銀時だが、妙の方は目先のダッツしか見ていない。
あれよあれよという間に銀時の手は引っつかまれて、スプーンは妙の口に引き寄せられる。

口の端にバニラをつけた桃色の唇が開き、最後の一口はパクリと食べられた。
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!」何してくれとんじゃああああああ!銀時の悲鳴が昼下がりの志村家に響く。してやったり顔をする妙はふふっと穏やかな笑顔で微笑む。
今のやり取りが俗に言う間接ナントカであることに二人は一向に気づかないまま、昼下がりは過ぎてゆく。


#原作
アイスクリーム事変
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