約束はしない
まるで映画のワンシーンみたい。私の前でそっと寄り添う二人があまりにも綺麗だったから。思わずそんな陳腐な感想を抱いてしまった。
銀ちゃん、何してるアルか。アネゴはわたしのものネ、セクハラしてないでさっさと離れるヨロシ。
そんな台詞は、魚の骨でも食べたみたいに喉の奥に突っかかってしまって。ゴクンと唾の音が鳴る。
私の隣にいる新八も、いつもみたいに殴りかかったりしない。ただ悲しそうに、目の前を見つめて、寄り添う二人の姿を眼鏡のレンズに反射させている。
さっき私は、まるで映画のワンシーンだと喩えてみたけれど。これは映画なんかじゃないのだ。差し詰め、映画の最後にエンドロールと共に流れるNG集みたいなものかもしれない。
銀ちゃんがアネゴの背中にそろりと腕を回して、泣くな、と声をかける。
ぽろぽろとアネゴの頬を伝う宝石のようなそれを拭うように、銀ちゃんはアネゴの目尻にそっと口を近づけた。
やがて二人の唇が触れ合う寸前、銀ちゃんが私たちの方をちらりと見やった。見てんじゃねーよ、ってことか。何を今更恥ずかしがってるんだか分からない。
私は見せつけるように大きな溜め息をつく。
はいはいわかってるアルヨ。ラブシーンだろうが、NG集だろうが、そんなもの見てもちっとも面白くないから、私はギュッと目を閉じて「見ないでやるヨ」とアピールする。空気が読める私はなんて偉い女なんだろうか。
ちらりと薄目を開けて隣を見やれば、やはり新八も私と同じように目を閉じていた。しかし悔しそうに唇の下を噛んでいる。こんな時までお前はシスコンだな。
***
「待たせたな。行くぞオメーら」
銀ちゃんの言葉で、私はぱちりと目を開けた。眩しい光が目を刺激してくるので、慌てて傘で頭上を覆う。傘の端からそうっと覗き見たアネゴはもう涙を止めていた。腫れぼったい目を細めて、私たちを「いってらっしゃい」と笑顔で送り出してくれる。
「いってきます、姉上」
「いってくるヨ、アネゴ」
「いってくらァ」
必ず戻ってきますから。待っててネ。私たちは再び会うことを約束する。けれども銀ちゃんは「戻ってくる」なんて意味を表す言葉は一度も言わなかった。少なくとも、私が知る限りでは。
たとえ私がそれを指摘しても、きっと銀ちゃんは最後まで約束はしないんだろう。
臆病者、と。銀ちゃんの隣に並んだ私が、銀ちゃんだけに聞こえる声で呟く。そうしたら、臆病者で結構だ、と返って来た。
「俺が、待ってろなんて言ったら、」
アイツはずっと待ってるだろうが、銀ちゃんがこれ以上ないくらい弱々しい声でそんなことを言う。
「それじゃ、だめなんだよ。そうだろ。だってもし、俺が帰ってこなきゃ、アイツはどーすんの」
安心しろ、俺が帰ってこないときはすぐに俺のことは忘れて幸せになれよってアイツにゃ言ってあっから。
そんな、いらない言い訳まで余計にくっついてきた。
銀ちゃん、それは間違ってる。幸せになれよなんて言わないで、だってアネゴは銀ちゃんとじゃなきゃ幸せになれないでしょ。
銀ちゃんだって、それをちゃんとわかってるでしょ。なのにどうしてそんなこと言うの。
その言葉も、また、喉の奥に飲み込んでしまった。私は何も言い返せなかった。銀ちゃんの横顔が酷く寂しげだったからかもしれない。
ああ、胸が痛くて仕方ない。私の心が曇っていく。どんよりと暗い灰色に染まっていく心が、こんなお別れは嫌だって強く叫んでる。
その鈍く重たい感情は、銀ちゃんの腰に差された黒鞘の真剣のように、鋭く私の心を切り裂くのだ。
#原作
約束はしない '20100626
title 弾丸