俺の愛したまな板

※バッドエンドギャグです


 まるで天変地異に遭遇したような顔の新八が、ひどく焦った様子で事務所に飛び込んで来た。ゼエハアと息を切らして、血走った目の新八を見るに、ただことではない慌て方だ。
 新八が落ち着くまで待ってから事情を聞くと、天人の最新技術によって姉の破滅的な料理の腕前が、劇的に改善したのだと言う。信じられないですよと感動をあらわにする新八を見ても、俺は別に驚かない。劇的といってもどうせ劇物を作り出すことに進化したとか、そういうレベルの話だろうと思ったからだ。
 だが、新八の話には続きがあった。新八曰く、これもまた天人の科学的発明によって、姉の絶望的な体型がボンキュッボンになったのだという。
 そんなわけで俺は全速力で原付を飛ばして、志村家に向かった。怖いもの見たさというやつだ。別にボンキュッボンに期待したわけではない。断じて。
 半信半疑の俺を待っていたのはありえない光景だった。志村家の食卓にならぶ黄色の卵焼きを見た俺は、目を疑う。

「料理が下手だの、絶壁がどうだの、会うたびに銀さんたら私のことをからかってくるでしょう?」

 これなら文句は言わせないわよとお妙が得意げに笑う。お妙の首から下には、ちっとも慎ましくない大きく膨らんだ胸がたゆんたゆんと揺れている。料理上手のナイスバディの無敵の女へと変身したお妙を目にして、俺は返す言葉を失った。
 ああ、俺がからかったせいか。
 お妙がこんな姿になってしまった原因は、間違いなく俺だ。
 俺は過去の発言を猛省すると共に、とても悲しい気持ちになる。「俺がからかうと眉を八の字に寄せてむっとするお前の顔がかわいくてつい」だとか「胸の大きさにこだわりはないけれど恥ずかしそうにするお前の顔が見たいからつい」だとか、小学生男子でも今時しないだろう言い訳を打ち明けたとして、もう遅い。すべてが無かったことにはならないのだ。
 どんなに悔やんでも意味がない。まな板のような胸も、かわいそうな卵焼きも、志村妙という女を構成していた愛すべきものたちはもう帰ってこないのだ。


#原作
俺の愛したまな板 '20191015
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