ケーキより甘い声だから
デコレーションもろくにされていない、イチゴが載っただけのホールケーキを見て、お妙はさきほどから黙りこくったままだ。……やっぱり怒っただろうか。そりゃそうだろうな。だって誕生日ケーキにしてはシンプル過ぎるしな。
ケーキの材料の買い出しすらままならないほど、ここ最近やたら仕事が入って誕生日ケーキ作りに専念する時間が取れなかったのが原因なのだが、そんな言い訳を並べる俺ではない。趣味でホールケーキを作るほど甘味を愛している俺が、仕事が忙しいとかいう下らない理由で、ケーキ作りをおろそかにしたことが情けなくて仕方なかった。
テーブルに鎮座するケーキとお妙を交互に見やって「ごめん」と謝ると、お妙はキョトンと俺の顔を見つめてくる。
「どうして謝ることがあるんです」
「時間が無かったとはいえ、おめーの誕生日なのに、こんなしょぼいケーキになっちまって悪かった」
「じゅうぶんだと思いますよ? 見た目のことはよく分からないですけど、わたし、銀さんのつくるケーキはみんな美味しくて好きです。きっとこれも気に入ります」
お妙の機嫌を損ねたわけではなかったことが分かっただけでも上等なのに、その上とても嬉しいことを言われて俺は胸が熱くなる。
ほっと胸を撫で下ろしている俺の隣で、お妙が不意に『お妙ちゃん誕生日おめでとう』の文字を指さして、「これって……」と聞いてくる。
「プレートも銀さんが?」
「そうだけど」
「わたしの名前がお妙だってこと、銀さん知ってたんですね」
「なにを当たり前のこと聞いてんだよ」
「だって銀さんたらいつも、オネーサンとかお前とか言って名前呼んでくれないんだもの」
「そうだっけ」
「そうですよ。普段呼ばれないから、逆にこういう時だと特別感が増して、なんだか嬉しいですね。あ、そうだ。次の銀さんのお誕生日は『銀時さん』ってプレートに書いてあげますね」
ギントキサン。
お妙の口から告げられた、その響きの甘さにしばらく動けなくなった。
次の俺の誕生日っていつだ。ほとんど一年後じゃねえか。ふざけんな。
暗黒物質になったら困るのでケーキ作りはご遠慮願いたいが、ケーキに飾るプレートの名前入れだけはこの女に任せたいと思う。できれば、ハッピーバースデーの歌つきがいい。子どもっぽいと笑われてもよかった。鈴の音が転がるみたいな声でもう一度、銀時さんと呼ばれてみたい。
#原作
ケーキより甘い声だから '20191106